2006年08月
EveryLittleThingへの評価  (2006.08.16)

ELTが10周年だそうだ。特にたいした才能の無いJ-POP集団で、ここまでの長持ちはすごい、と素直に脱帽する。
ヤフー動画で10年分のPVが無料で見れるので、見る。96-7年頃の曲は、ビジュアル的にも実に小室っぽい。実際当時、TDKのCMで初めて見たときは、また小室ファミリーかよと勘違いした。しかし98年頃には跡形も無く消え去った小室とELTの間には、大きな時代性の違いがある。華原の使い方に代表される、歌姫的世界観は、90年代半ばにして、実は80年代的ロマンチシズムの残骸であったと僕は考える。結局TM出身の小室は、90年代という時代になんとか足をかけ成功したものの、90年代後半に入ると、脆い足場に耐え切れず、去っていったのであった。
対して、ELTは登場は96年であるが、初期の小室っぽいビジュアルにもかかわらず、思想的に96-06という10年間を乗り切れるだけの時代感覚を持っていたと思う。より具体的には、「アイデンティティが分散化され、個人が、携帯電話の画面の中にだけ存在価値を認められる」時代である。ELTという名の命名理由は、「すべての小さな者たちへ届け」だと僕は記憶しているが、これは物凄く時代を先取りしていたと言える。ELTの歌詞は時間が経つにつれ、より具体的な指針というべき内容に変化していった。これが若い女子に受けたのが成功の理由だ。彼女達は自分自身が携帯メールの文字に解体されていく中で、いかに生きるかという諸問題に、無意識ながら、常に直面していたからだろう。
この辺に小室的80年代的ロマンチシズムとの大きな隔絶が見られる。80年代的ロマンチシズムとは歌姫へのworshipを通じた、同時代的他者との連帯に他ならない。だから意味の分からない歌詞も成立しえた。歌姫崇拝は、その後浜崎あゆみによって延命が行われたが、歌詞の内容はELT的な、地に足のついた内容なっている。

あらためて年度ごとにPVを見て、常に時代の空気をフォローしているのには驚かされる。これらの映像は、96-06という10年だけでなく、亀戸の高校生だった持田の20代後半までの女の成長であり、また同時代を生きる団塊ジュニア女子の成長にシンクロしてきたのだった。きっと、プロデューサーが才能あるんだろうな。うまくいけば10年と言わず、ELTは今後20年、30年と長生きする可能性がある、頭数の多い団塊ジュニアババアを引き連れて。

余談だが、「J-POPは音楽性が低い云々」いう奴は馬鹿だ。POPSに必要なのは、音楽性ではなく、時代性である。これはおそらくどの国においても同じだろう。というか時代性の表現のために、POPSというジャンルがあるんだろうに。


夕食は290円  (2006.08.15)

お金に余裕が無いので、
今夜は豚丼を食べようと、
松屋に行き、
駐車場に車を入れようとして、
壁に貼られている
「前向きに」
というステッカーに、励まされた。


さらば入道雲  (2006.08.14)

コンビニのウォークインごしに、僕は1L瓶に入った赤い液体を見る。「南国のフルーツから作ったサラダ用ドレッシング」、とある。聞いたこともない果物の名前。とにかく酸っぱいことは間違いなさそうだ。とても興味が沸くが、なにしろ千円もするので、僕はその瓶をまた冷気に満ちた棚に戻す。

アア、これは夢だった。

昨夜終電が無くなり、東京で友達の家に泊まった僕は、排ガスの匂いのしみこんだ朝もやの中を、空港に向かって歩き出した。途中、左手に工場を見る。お盆休みで誰もいない工場。門のところにある噴水だけが、中空にその存在を投げかけていた。工場、運河、モノレールの橋げた、羽田整備場、滑走路のフェンスとスモッグの向こうで朝の便が次々と離陸をはじめていた。僕はB滑走路の端にある駅から、品川行きの電車に乗り、千葉の家へと向かった。
千葉駅のキオスクで、文藝春秋を買い、今年の芥川賞の『八月の路上に捨てる』を読む。なかなか悪くない。そろそろ、フリーター文学というジャンルが出来てきても良いのではないか。
昼下がり、地元の駅に着く。6両編成の古い電車が、コトコトと乾いた音を立て、もやの彼方に消えていくのを見ていた。日差しが強くて、地面から焼けたアスファルトの匂いがした。崖から染み出した水が、歩道の上に藻を群生させている。僕はその写真を一枚撮り、空を見上げた。そのあまりの青白さに、僕はとても悲しくなった。そうか、夏なんだ。


生還 from Mt.Fuji  (2006.08.13)

金曜の夜から、知人4人で富士登山へ。前回は雨で延期になり、今回も台風が来てやばそうだったが、台風も足早に去りなんとかなりそうだったので、思い切って出発。後で考えると、この思い切りが悲惨な結果を招くことに・・・。
夜中に北麓の駐車場に着き、テントを張って就寝。朝5時に起き、バスで5合目へ。小雨が降り始めたものの、上りは大過なく5時間半で頂上へ。頂上を一時間ほどプラプラし、下山開始。
8合目まで降りて来た頃、突然霧が発生して5歩前が見えなくなる。雷が鳴り、雷光が周囲に落ち始める。そして予想通り、雨。ドシャ降り開始。避難しようにも、下山路の8〜6合目間(徒歩2時間)には小屋や屋根付きの建物などは一軒もない。30分後、雨がみぞれ(ひょう?)に変わり、体中を直撃。山肌に雪が積もりはじめる。冬用のジャンパー含め4枚重ね着しているのに、死ぬほど寒い。そして相変わらず周囲は濃霧で全く見えず、全員はぐれる。途中で2人を発見するが、スコットランド人女性が倒れていて、看病している。寒さと大雨に倒れ、ショックで気を失ったらしい。僕自身寒さで茫然自失として、高山病もあり、頭が痛く吐き気がして、生きる屍状態で、彼らに看病を任せて独り下山。6合目あたりまで降りるとようやく晴れてきた。空をヘリが飛んでゆく。後で聞くと例の外人女性が白目をむいてしまい、ヘリで病院へ搬送したらしい。1時間後5合目ではぐれた1人を発見。彼はレインコートを持っていないので、ずぶ濡れになり、激しく震えていた。このままだと風邪をひきそうなので、河口湖駅行きのバスで強制下山。女性救助で下山が遅れていた2人にようやく電話がつながり、駅前ホテルの風呂場をランデブーポイントに再設定。ランドリーで服を乾かして、お湯で暖を取っていると、救助隊の車で7合から5合に降りた2人は1時間ほどで到着。ようやく全員が現実に復帰し、東京への帰路へ着くことに。車が東京に着くと、終電も終わっていたので千葉に帰れずに、泊めて貰う。バックパックを開けてみると、カメラを含め、全てがびしょ濡れになっていた。なぜかサイドポケットに入れっぱなしになっていた、『性的人間』(大江マルメガネ氏著)を発見。裏山に捨ててある濡れたエロ本状態になっていて、殺伐とした気持ちが、少し救われました。
正直なところ、ホント勘弁してください!今回は僕も本当に泣きそうになりました。


美しき熱帯  (2006.08.06)

サンデージャポンを見ながら、タバコを吸い、長く伸びた灰を、僕は窓辺の、灰皿に落とす。
アジアンタムに水をやる。
車の整備書は、まだ来ない。イギリスは遠い。
昨晩飲んだ酒の缶を、運び、水ですすいで、ゴミ箱へ捨てる。キウイ、イエローパッション、またキウイ。南国の柄。
亀田興毅が泣く。
通販で買った、歯ブラシと歯磨き粉はまだ来ない。
霧吹きで、葉にもたっぷり水を与える。
楽天からメールがあり、クレジットカードがはじかれた、と言われる。
掃除器の蓋をあけて、埃を払う。
腹が減ってきた。
ガソリンスタンドへ行って、10Lだけガソリンを入れる。
無鉛プレミアム。
エンジンをかける時、ときどき、寂しくなる。
いや、たいていのとき、僕は寂しい。
そして惨めだ。


カモメを呼ぶ野鳩(第1章)  (2006.08.01)

「はっきりいって、君の名前は嫌いじゃない。
綾子。普通だけど、けっして悪い名前じゃない。でも、名字はぜんぜん好きじゃない。中山、これ以上無いというくらい退屈で、凡庸な響きだ。」
どんなに平凡な名前にも、その人の人柄はあらわれている。親が生まれたばかりの子につける名前に、退屈さなど入り込む余地はないのだ。しかし名字はそうではない。僕は昔から、平凡な名字の女があまり好きではなかった。山田、田中、鈴木。





蛍光灯の光が、部屋の白い壁を、青く染めていた。
僕はベットに横になり、後ろに組んだ腕の上に頭を乗せ、長い間日光に晒されて、端がパリパリに浮き上がったいくつかのポスターを眺め、壁のフックにかけてある黒いコートを眺めた。コートは去年の冬が終わると同時にそこにかけられ、あと半年も先の冬の訪れを、ただ無言で待っているようだった。


夜10:30
僕は電話をかけ、綾子を近くのコンビニまで呼び出した。
靴下をはき、車のエンジンをかけ、タバコを1本吸ってから、丁寧にアクセルを踏んだ。コンビニの外で、オレンジ色のレンガに足をのせ、コンクリートの車どめに腰をかけ、綾子は待っていた。僕は500mlのビールを2本買い、綾子を助手席に乗せ、冷えたビールで結露したビニル袋を膝の上に置いた。


海に着くまでの40分間、僕らはひとことも喋らずに、時速70kmで走り続けた。ひとことも、は本当ではなかった。僕は「はっきりいって、君の名字は好みじゃない」ということだけは言った。綾子はサイドミラーを見つめたまま、ただうなずいた。


海についた時間はよく分からないが、おそらく深夜頃だったと思う。僕らはテトラポットの上に座り、海と、空と、航空障害灯と、たまに自分の靴を見た。僕はもうぬるくなったビールをあけ、「手をつないでいて欲しいんだ」とだけ言った。
(つづくかも)


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